あぶれん坊万歳!!

エンタメ同人誌aBreのブログです。2015年5月4日第二十回文学フリマ東京(C-32)に参加します。

『タケトリ異聞2500』 背川有人

<予告>

――かぐや姫×富士山噴火×百合!
「御文・不死の藥の壺ならべて、火をつけてもやすべきよし仰せ給ふ」
なぜ帝はせっかくの不死の薬を焼いてしまったのか? 不死の魅力は、いつの世も人を惑わせるものなのに。
霊峰富士のふもとに、森の番人美弥子と大兎イツキ号は謎の青年ハル、怪しげな3人組、そしてかぐや姫に出会った。不死の薬をめぐる新たな試練。その行方は? 更に富士の山に隠された秘密とは?
千八百年(ちあまりやおとせ)越しの『竹取物語』が今始まる!

        • -

<立ち読み>

  〜〜

 彼が長い外套の前を払って、美弥子は初めて、青年が腰に一振りの刀を提げていたことを知った。だが。
「正気?」女が鼻で笑った。「銃相手に刀?」
 無茶だ、と美弥子も思った。
「貴方はおとなしくなさるべきだわ。ご自分の価値を理解なさっていない」
「理解しています。僕一人の命に、一族の存亡を賭ける価値はない」
 美弥子にも、辺りの雰囲気が変わったのが分かった。ちりちりと肌が痛む。
 不意に恐怖が美弥子を襲った。火薬の臭いが、あの朝を思い起こさせたのかもしれなかった。
 青年が深く腰を沈める。小男が片足を引く。美弥子は思わず目を瞑ってしまった。鞘走りの音が――
 ――ゃー!
 あれ、と目を開ける。声が聞こえたような気がした。悲鳴が、遠いところで……いや。
「あーっ」
 近づいてくる。
 顔を上げて目に入ったのは、白い足だった。
 足が二本、空から降ってくる。
 ぽかんと口を開ける美弥子に気づいてか、鞭の女も空を見上げる。彼女もまた唖然として、しかし我に返るのは美弥子より早かった。
「上よ! 避けなさい!」
 男達は顔を上げ、固まった。
 少女が、降ってくる。
 美弥子もようやく理解した。捲れあがった衣装を押さえようとする無駄な努力を払いながら、少女が空から落ちてくる。
「危なあい!」
 甘い声が降ってきた。
「避けて避けてえ!」
 そして、白いふくよかな太ももが、小男を押し潰した。
 衝撃に土煙が舞い上がり、視界を奪う。
 思わず顔を庇った右腕を、そろそろと下ろす。煙が段々に薄れ、最初に目に入ったのは、長い黒髪だった。次に赤い鮮やかな着物。そして、切れ長の瞳と花びらのような唇の、白い美貌。小柄だが丸みを帯びた体。その尻の下からは、小男の手足が突き出している。
 少女は首をもたげ、ゆっくりと辺りを見回し――美弥子と視線が合ったその瞬間、「ああ」と一声、花咲くように顔を綻ばせる。
 え、と美弥子が呟くや否や、少女は弾かれたように立ち上がり、美弥子に向かって飛び込むように身を投げ出してきた。
「お会いしたかった、私の愛しいみかど!」
 地に仰向けに倒れたまま、柔らかな少女にのしかかられ、天を仰いで美弥子は思った――もう、何が何だか分からない。