あぶれん坊万歳!!

エンタメ同人誌aBreのブログです。2015年5月4日第二十回文学フリマ東京(C-32)に参加します。

『ザクヴァス山脈の一村における高地ゾンビ語の記述および一考察』 Ager-Oryzae

<予告>

――「ga gugana buguda」
ゾンビ。
うぅうぅと唸り声を上げ、不気味によろめきながら徘徊する。ゾンビ。
恐怖され、絶望され、打ち倒され、滅ぼされ、嘲笑される。ゾンビ。もはや人間ではなく、記憶も人格も失って、モンスターと化した存在。
ここにあるのはゾンビに関する一つの報告だ。だがそれは私たちが未だかつて知ることのなかったゾンビである。孤立無援の男はある朝突然ゾンビに襲われながら、彼らに何を見出し、そしてどこへ辿り着いたのか。
好奇心は猫をも殺す――では学者は? そして、ゾンビは?
これは、ゾンビに関する一つの神話である。

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<立ち読み>

  〜〜

 そのうち、奥さんがゆらりと立ち上がり、ウともオともつかないあいまいな呻き声とともに、ふらふらと近づいてきた。私は、名状の出来ない不安に襲われたが、まだ、彼らと話ができると信じていた。だが、現実は現実だった。そんなトートロジーが頭に思い浮かぶ間もなく、私は身を避けた。奥さんは、否、奥さんだったものは、腕を振り上げ、呻き声とともに殴りかかってきたのだ。
 私は逃げ出した。しかし、冷静さを全て失わずに済んだのは、あまりにも現実離れした事態のせいだろうか。エイブモズ氏の家の玄関に掛けてあった食料小屋の鍵を手にしていたのだ。村外れにあるレンガ造りの小屋なら、おそらく籠城できるだろうと踏んだ。食料も、確保できる。
 家を飛び出すと、食料小屋へと一目散に走った。いつの間にやら、村中ゾンビ、おお、これはゾンビなのだ。その動きは、映画で目にしたゾンビそのものだ。とにかく、そのゾンビがあふれていた。幸いにして、奴らの動きは遅かった。全力で走れば、決して追いつかれないだろう。しかし、私以外の村人は全員呪われたゾンビとなってしまったようだった。とにかく、数が多かったのだ。
 奴らに捕まらないように食料小屋へと逃げるには、少々頭を使う必要があった。積極的に私を取り囲もうとしていたからだ。とはいえ、奴らはさほど知能があるわけではないようだった。例えば、食料小屋の前で待ち伏せをするようなことはしなかった。だがしかし、逃げるさなかに非常におどろおどろしい、冒涜的な推測が頭をよぎった。それは、私にひどい嫌悪感を抱かせるとともに非常に強い知的好奇心をもたらすものだった。
 しかし、小屋へと逃げ込む直前に、その推測は確信へと変わった。

 奴らは言語を持っている!