あぶれん坊万歳!!

エンタメ同人誌aBreのブログです。2015年5月4日第二十回文学フリマ東京(C-32)に参加します。

Ager-Oryzae「ゾンビ語文法要覧」

この掌編は『aBre』第一号収録の「ザクヴァス山脈の一村における高地ゾンビ語の記述および一考察」(Ager-Oryzae)の資料集となります。どうぞお手元にお置きになり、かの言語の習得に励んでいただきたく、皆様に公開する次第でございます。

  →『ザクヴァス山脈の一村における高地ゾンビ語の記述および一考察』の立ち読みはこちら

それでは、お楽しみ下さいませ。


「ゾンビ語文法要覧」


 これは、U国からの資料をもとに書かれたものである。周知の通り、U国は十数年前に革命が起きて新政府が樹立された。後に新政府はU国領内のザクヴァス山脈から発見されたとする文書を公開した。その記述は、俄かに信じ難い内容であったが、後の調査によりおおむね事実であることが実証された。その際に未発見だった資料が発見され、また修復技術の進歩により判読出来る箇所が増えた。今回はそれらによって新たに得られた知見も補った。しかし、それでも一言語として判明していることはごくわずかである。今後の研究や発見をまちたい。


I.概要

 本稿で扱う言語は、便宜上資料に書かれていた呼び名である「ゾンビ語」を用いることにする。

 ゾンビ語は大きく分けて3期に分けることが出来る。資料の筆者がおそらく言語学・音声学的素養をもっていたためか、その発達段階については比較的詳しく分かっている。第2期以降の変化はあまりにも急激であるが、その理由として、資料の筆者がゾンビの生活に介入したことが考えられる。なお、ここでは最終段階である第3期について略述する。


II.音韻

  ゾンビ語は音韻の数が少なく、しかも全て有声音であるという特徴がある。

母音 u, o , a, 

子音 破裂音 b, d, g

摩擦音 β, 〓, ɣ

鼻音  m, n

 母音は全て後舌母音である。

 母音に挟まれた破裂音は必ず弱化して摩擦音となり、摩擦音はそれ以外の場所には現れないため、対応する破裂音と摩擦音は位置異音であるといえる。

 イントネーションは「低く重い」という記述のみで、アクセントについては全くの不明である。しかし、第3期ゾンビ語はある程度の複雑さを持っているため、境界表示的なアクセントを有していた可能性はある。


III.名詞

 名詞は単複の区別が無いものの、複雑な格変化を持つ。これは第2期に生じた格を表す接尾が名詞と融合した結果、生じたものであることが資料に明示されている。

 資料をもとにまとめると、名詞は主格(〜が)、属格(〜の)、与格(〜に)、対格(〜を)、奪格(〜から)、処格(〜にて)の6つの格を持つ。それぞれの格語尾は、主格-∅、属格-do、与格-du、対格-bo、奪格-gan、処格-nud。斜格にするためには、主格形の語末が子音の場合、格語尾の最初の子音と同一であるならそのまま、そうでない場合は主格形の語末子音を落として付ける。そのとき、破裂音を摩擦音にする。

 この複雑な格変化のゆえに、文を作る際の語順は自由である。

語末が子音で終わる単語の例

“doβod”(兎)

主 doβod

属 doβoddo

与 doβoddu

対 doβoβo

奪 doβoɣan

処 doβonud

語末が母音で終わる単語の例

“aɣu”(水)

主 aɣu

属 aɣu〓o

与 aɣu〓u

対 aɣuβo

奪 aɣuɣan

処 aɣunud

代名詞

 人称代名詞はogo(一人称;第3期形*oɣoと推測される)とbo(二人称)のみ確認されている。しかし、ゾンビたちは個人名を持たず、互いに代名詞で呼び合っていたため、三人称の代名詞も存在していた可能性が高い。指示代名詞は後述(V.その他の品詞-冠詞)する ud を除いて未確認である。


IV.動詞

 動詞は人称による変化をもたない。時制は現在と完了の2つのみが確認されている。法は直説法の他、命令法と接続法がある。受動相は確認されていない。直説法現在が動詞の基本形であり、他の時制・法はこれに接尾をつけてつくる。また、形を変えずに名詞や形容詞に転成できるようである。

直説法完了形

 語末に-u〓aをつける。語末が子音で終わる動詞の場合は摩擦音化させる。

例 bu〓o(見る)→bu〓ou〓a、 bug(逃げる)→buɣu〓a

命令法

 動詞に接尾をつけるのではなく、文頭にdu〓oをつける。命令法の時制は現在のみ確認されている。否定命令はnonuを文頭に置く。

接続法

 詳細は不明だが、資料で「接続法」という名称を使っているため、話者の推測、可能性等の実際には行われていないことを表すと思われる。

 語末に-〓onogを付けてつくる。動詞の語尾がdで終わる場合は-donogとなる。

例 bob(帰る)→bob〓onog、 gad(落ちる)→gaddonog

 また、-u〓aと組み合わせて-〓onoɣu〓aの形をとって完了形を作ることもできる。


V.その他の品詞


冠詞

 本来は「その」を意味した指示詞udが発達して定冠詞となった。udは名詞の前に置かれ、名詞の格と一致させる。格変化のしかたは、名詞と全く同様である。

疑問詞

 gun(なぜ)、gu(誰・何)、gand(いつ)、bo(どこ)、gomd(どのように)の5種類が存在する。そのうち、guは名詞と同様の格変化をする。また、gaという語が文頭に来ると文章が疑問文になる。疑問詞を使う際は必ずgaの直後に置かれる。

接続詞

 od(そして)、damon(しかし)、gua(なぜなら)が確認されている。そのうちguaは常に文末に置かれる。


 形容詞・副詞は存在していたらしいが、明確に分かる形で確認できていない。