あぶれん坊万歳!!

エンタメ同人誌aBreのブログです。2015年5月4日第二十回文学フリマ東京(C-32)に参加します。

『幻想家族』 穂坂一郎

<予告>
――「るり子ったら、どうしてお祖母ちゃんなんて拾ってきちゃったの?」

そこにいたのは奇妙な家族。セールスマンとして訪れた男は気がつけばその家の「父」になっていた。訳もわからないまま、見ず知らずの「妻」や「娘」たちと生活を送り始める男。何気ない家族の団欒、けれどどこか不自然な家族。ちぐはぐな会話、増える人数、代わる人員、そしてそれを見る目。奇妙な家族はそれでも変わらない日常を営み続けている。違和感をどこかに置き忘れながら……。

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<立ち読み>

  〜〜

――玄関前にて。
「うう。なんか流されている気がする」
「いなくなっちゃダメだからね、パパ」
「? るり子ちゃん?」
「パパはパパだよ。ここの家の、かぞくなんだから」
「……僕の家」
「パパは、みんなのこときらい?」
「今日初めて会ったのに、嫌いも何も」
「みんなずっとパパといっしょにいたよ?」
「……るり子ちゃんの、るり子のママは、若くて綺麗だね」
「パパ、ママとケッコンしたんでしょ? だからおにいちゃんもおねえちゃんもるり子もいるんだよ?」
「僕は……疲れてるのかな。英子さんは昼間何をしているの?」
「英子おねえちゃんはおーえるさんだよ」
「僕の奥さんの名前は」
「ママの名前知らないの?」
「うん。おかしいね。さっきから知ってることを忘れてるみたいだ」
「へんなの」
「変だね」
「パパ、もうしゅこしゅこ終わった?」
「終わったよ。るり子は玄関を開けていてくれるかな?」
「はーい」


――男、少女と共に居間へ。
「あなた、ご飯出来たわよ。るり子ありがとうね」
「そっか楽しみだな……博子さん」
「あら、名前で呼ばれるの恥ずかしいわね」
「お風呂出ましたー。わ、いい匂いがする」
「英子、疲れは取れたか? 昼は座り仕事で大変だろ」
「え? ああ、そうねえ」
「お袋、醤油まだ?」
「秀一、何でサラダに醤油なのよ。マヨネーズに決まってるじゃない」
「はいはい、サラダは別のお皿に盛っておくから、ソースは後でかけてね」
「ピーマン……」
「るり子、好き嫌いはいけないのよ」
「そうだな。パパもピーマン食べるぞ」
「え? ……だったらるり子も食べる」
「おお。るり子偉いじゃん」
「姉貴もニンジン食べろよ。妹に越されてるぞ」
「そう言えばあなた。今度の土日はお休み取れるんでしたよね」
「え? ああ、そうだったね。ちゃんと取れたよ」
「じゃあ久々の家族旅行だね! 父さんはどこがいい?」
「親父と旅行かー。久しぶりだな」
「パパー。るり子、動物見たい」
「うん、そうだな。みんなで一緒に行こう」