『たとえばこんな恋愛瑣談』 垂崎依都
<予告>
――妄想×ハレ×コメ!
ハレンチとはエロスではない、青春真っ盛りの青年、乙女たちの妄想である。by垂崎
現役女子大生(21)のお贈りするハレンチコメディ(略してハレコメ)。
私の好きな人は、私の親友に恋をしている……へたれの彼と天然の親友とお祖母ちゃんっ子の「私」の織りなす青春の日々。
ちょっとおバカでくすりと笑える、甘く切ない三角関係。
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<立ち読み>
〜〜
「また誘ってくれるの?」
へ? と今度は瀬谷が聞き返した。目の前の彼女を見てみれば、こてんと首を傾げている。子どもみたいに無邪気な仕草に、瀬谷はどもりながら訊いてみる。
「誘っても、いいのか?」
「もちろん」
愛実の満面の笑み。瀬谷はそれをぼうと眺めて、次いで耳まで真っ赤になった。それを隠すように天井を仰ぐ。恥ずかしさのあまり、愛実の顔が見れない。
「瀬谷くん?」
と愛実の戸惑った声がする。
「ごめん、俺、今なら死んでもいいかも」
過激な発言に、愛実が慌てた声で、
「瀬谷くん!?」
と呼んだ。瀬谷はゆっくりと視線を下げる。赤い顔のまま、それでも愛実を見つめる表情は真剣そのもの。
「これだけ言っても通じてないんだから、参るよなぁ」
そう言う瀬谷の目が細められて、そこに寂しげな色が混ざる。なのに微笑む顔は包みこむようにあたたかで、愛実の胸がとくんとひとつ、切ない音をたてた。互いに目を離せないで見つめあって、やがて瀬谷がくす、と小さな笑みを零すと、周りの空気が柔らかくなる。
「……愛実って、呼んでいいかな」
囁くような声で、瀬谷が懇願した。その言葉に、愛実の胸が一気に高鳴る。
瀬谷くん、と呼べば、彼は微笑んで愛実の頬に手を添えた。そのままふたりの距離は縮まっていき――
ばん! と高い音をたてて、雑誌を叩きつけるように閉じた。たくましすぎる自分の想像力が恨めしい。声にならない叫び声をあげれば、雑誌を挟んで合わさった両手に力が籠もった。
わなわな震える手のなかで、雑誌がぐしゃりと折れ曲がる。と同時に、ぽんと肩を叩かれて、足が床から離れるんじゃないかというほど私の身体は跳ね上がった。
「あんまり返品本つくるなよ、新人」
別段怒った様子もなく、それだけ言って離れていったのは当店の店長様だ。その後ろ姿を見送って、ばくばくいう心臓をなんとか宥める。ゆるいけど、逆に怖い。皺のついた雑誌を見下ろし、私はまた溜め息を吐いた。