あぶれん坊万歳!!

エンタメ同人誌aBreのブログです。2015年5月4日第二十回文学フリマ東京(C-32)に参加します。

『鳩に捧げる狂想曲』垂崎依都 (『道化師の紡ぐ狂想曲』より改題)

  ――平穏な吹奏楽部に、突如鳴り響く不協和音……
次々と起こる事件に振り回される少女、マメの運命や如何に!?

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 微妙に鈍い。
 指先の違和感に私は腕を下ろした。問題の箇所を目の前に持ってきて、ばらばら指を動かす。その動きを追うように、カシャカシャと金属の擦れる音が喧噪の隙間を縫って耳に届いた。けれどそれは、動かせば動かすほど指の動きとずれてくる。
 明らかな調子の悪さに眉をしかめ、私はポケットからオイルを取り出す。オイルを差してすぐに練習すると、指がべたべたするから好きじゃないんだけど。とはいっても、トランペットの心臓のひとつ、ピストンがこんな調子じゃ話にならない。
「なに、調子悪い?」
 膝の上でピストンを外し始めると、さっきまでの私と同じようにウォームアップしていた裕美が声をかけてきた。顔を寄せて、なおかつお腹から出すような大声で。
「んー、ピストンがちょっと。メンテから戻ったばっかりなのに」
 答える私も裕美に負けないくらいの大声だ。そうでもしないと、隣にいるからといっても聞こえない。狭くないはずの視聴覚室は、辛うじて歩き回れるだけのスペースはあるものの、それぞれ楽器を構えた部員がずらりと並び、思い思いに音を出しているのだから。
 さっきより水っぽい金属音をたてながら調子を確かめていると、裕美とは反対の隣から空気を裂く爆音が響いた。思わず手を止めて、ついで眉間に皺を寄せて原因を睨みつける。
「音割れてるんですけど」
「割らしてるんだよ。どうも息の通りが……」
 だからって荒療治過ぎる。私の苦言を聞いているのかいないのか、顔を赤くしながら爆音を出し続ける広田に呆れた一瞥をくれてやった。
「ちょっとやめてよね、ふたりして。修理に出されたら堪ったもんじゃないよ」